「さよなら、つむりくん。」そう言って、木の枝にまだ眠っているつむりくんを置いて、
小さなカメさんは、森を去って行きました。お家に着いて、少し泣きました。さみしくて。
今日からは、お出かけから帰って来ても、誰もいないからっぽのお家になってしまうのです。
つむりくんは、無口で。ちいさいカメさんが、一方的におしゃべりをするだけでしたけど…。
ちいさいカメさんには、それが日課のようになっていたので、
テーブルの上につむりくんを探してしまうことがしばらく続きました。
「つむりくんは、どうしているんだろう?。ひとりでだいじょうぶかな?。」
ちいさいカメさんは、心配で心配で、だけどもう、つむりくんにはきっと一生逢えないのです。
そもそも、住む世界が違ったから…。
つむりくんとの出合いは、ハクサイ菜の中からでした。
ハクサイ菜を洗っていると、見なれない貝殻が水おけの中に落ちていました。
「おかしいな?なんで貝があるんだろう?。」不思議に思って、テーブルに置きました。
しばらくして、テーブルの方を見るとそこには、カタツムリが…。
「貝だと思っていたら、カタツムリくんだったんだね。」
そう言って、ちいさなカメさんは、ハクサイ菜を少し分けてあげました。
友だちのおおきなツルさんに、カタツムリのことをお話すると
「それは、きっと人間の仕業だよ。」と、言いました。
「人間の仕業って?」ちいさいカメさんが聞くと、物知りなおおきなツルさんはお話してくれました。
「このカタツムリは、きっとハクサイ菜を食べに来ていたんだよ。そして、お腹が一杯になって、
ほんの少しお昼寝をしていた間に人間が、ハクサイ菜を収穫しておおきなお店に売りに行ったんだ。
そして、君がそのハクサイ菜を買ったんだよ。このカタツムリにしたら、『なんじゃココ!どこやねん?。』て、感じじゃない?。」
「つむりくんが?。」ちいさいカメさんは、もう名前をつけていました。
「もしかして、かうつもり?」おおきなツルさんが聞きました。
ちいさいカメさんは、元気に「うんっ。」と答えました。
そして、つむりくんとの生活がはじまったわけです。
しばらく、すると
いままで、おいしそうに葉っぱを食べて元気に動き回っていたつむりくんが、
なんだか元気がないのです。
葉っぱもあまり食べていないみたいだし、ずーーっと寝てばっかり。
ちいさいカメさんは、心配になっておおきなツルさんに相談しました。
「つむりくん、お家に帰りたいんだよ。誰かに、葉っぱをもらうんじゃなくて自分の手で、
葉っぱを食べる生活がしたいんだよ。もう、お家に返してあげたほうがいいよ。」
ちいさいカメさんは、悲しくなりました。
つむりくんと、もっと一緒にいたい。けど、このままココに居たんじゃつむりくんは、
死んでしまうかも知れない。だけど、外に行っても他の生き物に食べられちゃうかも?。
ちいさいカメさんは、考えました。いっぱい、いっぱい考えました。
考え過ぎて、眠ってしまいました。
「起きて、起きてよ。」誰かの声がします。
「ぼくを、外に返しておくれよ。ココに居るのも悪くないよ確かに、君がいつも新鮮な葉っぱを持って来てくれるから。
ありがとうね。だけど、ぼくは、カタツムリなんだ。アジサイの葉っぱの上で雨粒小僧と約束しているんだ。
だから、行かなきゃいけないんだよ。おねがいココから出して!。ちいさいかめさん。」
ふっと、目が覚めました。目の前には、つむりくんが眠っています。
「今のは夢?。」だけど、つむりくんの本当の気持ちなんだとちいさいカメさんは、思いました
つむりくんを、落とさないように大事に持ってちいさいカメさんは、森に向かいましたとさ。
おしまい。