『天然色。』

みどりいろの空に、みどりいろの海。この世の全てのものが、みどりいろの空気に包まれている。
「そんなわけないよ。」他の奴らは、そう言う。だけど、おいらたちの目にはそう見えるんだ。
何もかもが、みどりいろ。それが、みどりいろなのかどうかすら、おいらたちにはわからないけれど…。
「この世には、天然色でものを見る者もおるんじゃよ。」おいらたちの中で、いちばん年寄りのじさまが言った。
「天然色って何じゃ?。」おいらは、じさまに聞いた。
「うーん、それはじゃな。うーーん…。」じさまは、困ったらしく寝たフリをした。
だけど、おいらはじさまのながーいながーいヒゲを引っぱりながら聞いた。
「なー。じさま、教えてくれろ。天然色てなんじゃ?。教えてくれるまで、ヒゲはなさんぞ!。」
おいらは、じさまのヒゲを引っぱり続けた。だけど、じさまはなかなか、かんねんせんかった。
それでも、おいらが引っぱり続けたので、じさまの、ながーいながーいヒゲは、もっともっとながーいヒゲになった。
おいらは、ビックリして家まで走って逃げた。
「はーっ、ビックリした。じさまのヒゲ伸びたぞ。いっぱい伸びたぞ。じさま、目あけたらビックリするだろな。痛かったかな。
明日あやまったほうが、ええよな?。でも、じさまもわるいぞ。うーん。」
「なに、ブツブツ言うてるん?。」見慣れないのが声をかけてきた。
ふわふわの体に大きな目玉、背中には羽がはえてる見知らぬやつが、おいらのこと見てる。もしかして食う気か?
「なー。アンタここの者?。そしたら、ちょっと聞きたいんやけど。なー、聞いてる?。」
「え?。」おいらの頭の中は、何が何だか良くわからなくなってた。
じさまのひげが伸びた事、目の前の変なのの事。だけど、大きな目玉のは、そんなのおかまいなしで話してくる。
「なー、この辺でスゴイきれいな赤い花が咲いているって聞いたんやけど、知ってる?。
確か名前は”ヒルディーローズディー”って言うんやけど。」
「ヒルディーローズディーは、知ってるけど赤いってなに?。」 って、おいらが言うと大きな目玉のは、不思議そうな顔して
「なに言うてんの?赤って言うたら赤やん!。ポストは赤いし、 とうふは白い。他にもあるけど…。もしかして、からかってる?。」
おいらには、そんなつもりは全然なくて、ホントにわかんなかった。 なのに、目玉のはすっかり怒っているみたい。
「おいら、からかってないぞ。それに、おいらにはみんな同じ色に見えるぞ。」
そう言うと目玉のは、大きい目玉をいちだんと大きくしておいらを見ていた。
「そうやったんか、ごめんな。そやけど、かわいそうやな。他の色がわからんのか。」と、目玉のは言った。
「おいらには、色がわからんのか?でも、他の色ってなんじゃ?。」
目玉のに聞くと、この世には色がついているのだけれど、おいらたちには、 みどり一色の世界に見えている。だけど、他のものにはいろんな色が着いて見えるのじゃと。
きっと、これがじさまが言うてた天然色と言うものなんじゃと、おいらは思った。
目玉のは、おいらに「かわいそうに、じゃまたな。」と言ってヒルディーローズディーを探しに行ってしまった。
でも、おいらはかわいそうなんてこれっぽっちも思ったことがない。
きっとそれは、じさまも同じと思う。 おいらたちは、お日様が顔を出したら起きて、帰って行ったら寝る。
お日様は、おいらたちや、この世界をきれいなみどりいろの空気で包んでくれるんじゃ。
何もかも、やさしく時には辛くだけどみんな同じように包んでくれるんじゃ。
他のものに、天然色が見えたって、別においらたちには関係のない ことで、おいらたちは、このみどりいろの世界が好きじゃ。
みどりいろの世界は、おいらたちの中では当り前のこと。
さあ、今日もみどりいろのじさまの所に行って、いろんな話しをしてもらおう。みどりのコップにみどりのお茶を入れて…。
よかったら、あんたもおいでよ。 あんたの目には、おいらたちがなにいろに見えるか知らんけど そんなことは、どうでもいいことじゃ。そうじゃろ?。
そして、このみどりいろの住人たちは、この先もみどりいろの世界の 中であたりまえに暮らしていきました。



おしまい。


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