『ラビくん。』

ウサギ小屋の中に、彼はいるのです。
他のウサギと何ひとつかわらないフリをして
だけどよーく見てみるとわかるはず、彼はにんじんがキライ。
生も煮物も炒めたものも、どれもこれも食べられない。
一日の栄養補給は、にんじんジュースで
だからほら、分かるんです。そこでにんじんジュースを飲んでいるのがラビくんなのです。
ただのウサギのように見えますけど、実はスーパーラビットなのです。
だけどラビくんには、地球を救う事なんて出来ません。
それどころか空を飛ぶ事も、スペシュウム光線を出す事もアンパンチも使えない。
みんなの理想のスーパーマンとしては、ダメダメです。
だって、どこから見てもウサギだし、どう見たって弱そうだし、
だけど、みんなを救えなくても、彼はスーパーラビットだと言う事には変わりがないのです。
フサフサの長ーい耳には、ピアスが5つ光ってて人間が嫌い。
おしゃべりは苦手、せかされる事も嫌い。だけど、だれかの話を聞くのは好き。
のんびりしてるから、いつもまわりに取り残されちゃうけどそんな事気にしてない。
近ごろは、色メガネをかける事が流行っていてネコも弱子もかけている。
だけど、興味がないからラビくんは、かけませんでした。
お日さまギラギラ眩しくて、ようしゃなく照らしつけて来ます。
ラビくんは、色メガネかけるくらいならこのままでいいよと
がんばったから、今では真っ赤な目をしています。
ぼくが、初めてラビくんに逢った時は真っ黒な目をしていました。
ピアスだって、1つしかしてなかった。
いつも、どこからともなく現れれては隣に座ってる。
何をする訳でもなくて、ただおとなしくぼくのまわりをフワフワ飛んで、
ぼくの独り言を黙って聞いてくれる。
そして、いつの間にかどこかに帰ってしまう。
ただ、不思議な事にぼくが必要としている時にはすぐに駆け付けて来てくれるんだ。
まるでスーパーマンのように。
だけど、ぼくを背中にのせて空を飛んでくれる訳でもないし、
イヤな奴をぶっ飛ばしてくれる訳でもない。
頭を撫でてあげるとよろこぶ。ホントただのウサギみたいだけど実はすごいウサギなのです。
ある月夜の晩に、ラビくんはなんだか悲しくなりまして
真っ赤な目から、たくさんたくさん涙があふれたそうです。
その涙は、おおきな水たまりになって、やがて海になったんだと彼は言ってました。



おしまい。


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